会長声明・意見

再審法改正を求める総会決議

2024/02/26
第1.決議の趣旨

 当会は、政府及び国会に対し、刑事訴訟法第4編の再審の規定(以下「再審法」という。)に関し、以下の内容を骨子とする法改正を速やかに行うよう求める。

1.再審請求の審理手続における証拠開示制度の法制化
2.再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
3.再審請求の審理手続における手続規定の整備


第2.決議の理由

1.再審請求の審理手続における証拠開示制度の法制化

 刑事事件の証拠の多くは、捜査を担当する警察や検察などの捜査機関に存在し、構造的に証拠が偏在する。そのため、最高裁は、刑事事件の通常手続において、裁判所が訴訟指揮によって検察官に証拠開示を命じることができると判断した(最高裁昭和44年4月25日決定・刑集23巻4号248頁)。
 2004年(平成16年)には刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)に公判前整理手続が導入され、証拠開示に関する諸規定が制定された。その後、2016年(平成28年)には、検察官が保管する証拠の一覧表の交付義務が定められるに至っている(刑訴法316条の14第2項)。
 再審開始決定に至った事案においても、構造的な証拠の偏在という事情は変わらないにもかかわらず、再審請求の審理手続における証拠開示については今なお刑訴法に明文の規定が存在せず、裁判所の広汎な裁量に委ねられている。
 「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第54号。以下「改正刑訴法」という。) の制定過程において、再審請求の審理手続における証拠開示の問題点が指摘され、改正刑訴法附則第9条第3項において、政府は改正刑訴法の公布後、必要に応じて速やかに再審請求の審理手続における証拠の開示等について検討するものと規定されている。
 しかしながら、この検討は現在進んでいない。そこで、再審請求人に対する手続保障を図り、えん罪被害者を迅速に救済するためにも、再審請求の審理手続における証拠開示の制度化を早急に実現すべきである。

2.再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止

 過去に再審開始決定(以下、この項において「開始決定」という。)がなされた事案では、長い年月をかけて開始決定を得たとしても、開始決定に対する検察官の不服申立てによって、更に審理が長期化し、時には開始決定が取り消され、振出しに戻るという事態も繰り返されてきた。
 例えば、現在、再審公判が行われている袴田事件では、2014年(平成26年)3月27日に静岡地裁で第2次再審請求に対して開始決定がなされたが、検察官からの即時抗告がなされ、結果的に開始決定が確定したのは2023年(令和5年)3月20日であった。静岡地裁での開始決定から実に9年、起訴されてから60年近くの歳月が経過している。
 このように、検察官の不服申立てを認めた結果、えん罪被害者の救済が遅延しており、極めて深刻な状況となっている(かかる問題点については、当会においても、既に2023年(令和5年)3月13日に「袴田事件」第2次再審請求差戻し後即時抗告審決定に関する会長声明」を発出して改善を求めている。)。
 そもそも、検察官が確定判決の結果が妥当だと主張するのであれば、再審公判においてその旨主張する機会は保障されている。したがって、再審公判を遅滞することなく開始し、速やかにえん罪被害者を救済するためには、開始決定に対する検察官による不服申立てを禁止する必要がある。

3.再審請求の審理手続における手続規定の整備

 再審法の規定はわずか19か条しかない。
 再審請求の審理手続については、確定審までの審理手続と異なり、いわゆる職権主義が採用されている上、再審法の規定の中で再審請求の審理の在り方に関する規定は「再審の請求を受けた裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調をさせ、又は地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。」と定める刑訴法445条の1か条のみであり、事実の取調べの内容や必要性の有無の判断、その他再審請求の審理手続をどのように進めていくかについては裁判所の広範な裁量に委ねられている。
 その結果、再審請求人に対する手続保障の内容は、再審請求の係属する裁判所の訴訟指揮に依存することとなり、上記1.の証拠開示以外の局面でも、審理期間その他において、「再審格差」と呼ばれる大きな差が生じるという問題がある。
 このような「再審格差」を是正して再審請求の審理手続における再審請求人の手続保障を図るとともに、裁判所の公正かつ適正な判断を担保するためには、上記1.に述べる証拠開示に関する手続規定を整備するほかに、①進行協議期日設定の義務化、②事実取調べ請求権の保障、③請求人の手続立会権・意見陳述権・証人尋問における尋問権の保障、④手続の公開、⑤通常審や過去の再審請求に関与した裁判官の除斥及び忌避、及び⑥国選弁護制度の導入等の再審請求の審理手続における手続規定を整備する必要がある。
 以上から、当会は、政府及び国会に対して、1.再審請求の審理手続における証拠開示制度の法制化、2.再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、及び3.再審請求の審理手続における手続規定の整備などを内容とする法改正を速やかに行うよう決議する。

 2024年(令和6年)2月9日
山口県弁護士会