会長声明・意見
生活保護基準の引き下げに反対する会長声明
2018年(平成30年)3月27日
山口県弁護士会 会長 田畑元久
山口県弁護士会 会長 田畑元久
2.厚生労働省は,平成29年12月8日の社会保障審議会生活保護基準部会において,生活扶助基準や母子加算を大幅に引き下げる案を示した。この厚生労働省案は,低所得者層(収入順で下位10パーセントの層)の消費水準が低下したことをもって生活扶助基準を減額するとともに,母子加算をふたり親世帯に比べたひとり親世帯のかかり増し費用ととらえたものである。
これを受けて内閣は,生活扶助基準を最大5パーセント引き下げることや母子加算を減額することを前提とした予算案を閣議決定し,衆議院に提出している。
3.しかし,このような基準の引き下げは不適切である。
現在の生活保護においては,生活保護の適用を受けるべきでありながら受けていない人が,低所得者層の中に相当の割合で含まれている。また,厚生労働省案の根拠となった全国消費実態調査では,消費の実態より低い数値となる可能性が指摘されている。また,前回検証した消費実態との相対評価による方式では,低い経済成長のもとでは,絶対的な最低生活費を下回らない保障がない。
このような現状を踏まえれば,低所得者層との消費水準との均衡により生活扶助基準を算定する方式は,過剰に低い基準となってしまう危険があるうえ,絶対的な最低生活費を下回ってしまう危険もある。
さらに,母子加算をかかり増し費用と整理し,健全育成の観点が除去されたものとして位置付けるのであれば,健全育成の費用として位置づけられた児童養育加算を十分なものとする必要がある。しかし,児童養育加算については,高校生まで支給するとの進歩はみられるものの,学校外活動費として算定されるにとどまり,食費等の生活の全般にわたるべき健全育成の要請をみたしたものとはいえない。
4.困窮者の問題が生じているとき,そこには,困窮者個人が,困窮者の周囲の者が,地域社会が,国全体が,それぞれ課題を抱えている。生活保護基準は,そのような課題に立ち向かい解決することを志向するものである必要がある。決して,世間が質素倹約に努めているからお前はもっと節約しろとかいった雑な考え方に立ってはならない。
当会および当会所属の弁護士は,困窮者,児童,単親家庭,傷病者,障害者,高齢者,消費者,多重債務者など,生活の困窮やそれに関連する複合的な問題を抱えた人々の法的課題解決に取り組んできた。
その中で,生活保護基準の低さが個人の生活の維持を困難にするとともに,支援者による支援のボトルネックとなっている現実に直面してきた。また,平成25年からの極端な生活保護基準引き下げにより,この弊害はますます致命的で過酷なものとなっている。
5.生活保護制度は困窮者政策の中心であり,生活保護基準は生活保護制度の中核である。
今般の不適切な生活保護基準の引き下げは,このような状況をさらに悪化させてしまうこととなる。
さらに生活保護基準は,最低賃金,地方税の非課税基準,各種社会保険制度の保険料や一部負担金の減免基準,就学援助などの諸制度と連動している。生活保護基準の引き下げは,単に保護受給世帯の生活を悪化させるだけでなく,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な悪影響を及ぼすことになる。
6.以上より,当会は,生活保護基準の引き下げに反対する。
以上