会長声明・意見

特定商取引に関する法律の改正を求める会長声明

2025年(令和7年)6月11日
山口県弁護士会 会長 浜 崎 大 輔
第1 意見の趣旨
 当会は、国に対し、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)について、以下の内容を含む抜本的な法改正を行うことを求める。

1 訪問販売・電話勧誘販売

⑴勧誘拒否者に対する訪問販売の規制
 家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された貼り紙を貼付するなど、あらかじめ訪問による勧誘行為を拒絶する意思を表明した場合、事業者は訪問による勧誘をしてはならないこと(ステッカー方式によるDo-Not-knock制度)を条文上明らかにすること。

⑵勧誘拒否者に対する電話勧誘販売の規制
 電話による勧誘行為を拒絶する意思を有する消費者が電話番号をあらかじめ登録機
関に登録した場合、登録された電話番号に事業者が電話勧誘することを禁止する制度(Do-Not-Call制度)を導入すること。

⑶訪問販売業者、電話勧誘販売業者の登録制
 訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録しなければならないものとすること。

2 通信販売

⑴インターネット勧誘取引に対する規制
 通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し(インターネット上での広告掲載により申込みを誘引する行為を含む。)、消費者が申込みを行い又は契約を締結する取引(以下「インターネット勧誘取引」という。) について、行政規制を設けるとともに、クーリング・オフ及び取消権等の民事規定を設けること。

⑵インターネット通信販売における継続的契約の中途解約権
 インターネットを通じた通信販売による継続的契約について、消費者に中途解約
権を認めること及び中途解約の場合の損害賠償の額の上限を定めること。

⑶インターネット広告画面に関する規制
 インターネット広告画面及び申込画面における人を誤認させる表示について具体例を挙げて禁止するとともに、誤認させる表示により誤認して申込みをした消費者に対し、その意思表示の取消権を付与すること。事業者に対し、広告画面、申込画面及び最終確認画面の保存・提供義務を負わせること。

3 連鎖販売取引

⑴連鎖販売業に対する開業規制
 連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ連鎖販売業 を営んではならないものとする開業規制を設けること。

⑵後出し型連鎖販売取引に対する規制
 特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特商法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。


第2 意見の理由

1 訪問販売・電話勧誘販売

⑴勧誘拒否者に対する訪問販売の規制
 訪問販売・電話勧誘販売については、他の年代に比べ、高齢者がトラブルや被害に遭う傾向が顕著であり、判断能力の低下した高齢者が深刻な被害を受けることが少なくない。今後超高齢社会を迎えるにあたり、今後更にこの傾向が強まることが懸念される。
 判断能力の低下により勧誘を断ることが十分期待できない消費者の存在を考えると、事前にかつ簡易に訪問による勧誘を拒絶できる制度が必要であり、ステッカー方式によるDo-Not-knock制度を速やかに導入するべきである。
 この点、特商法第3条の2第2項は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しているが、これに関し、消費者庁は「例えば家の門戸に「訪問販売お断り」とのみ記載された張り紙等を貼っておくことは、意思表示の対象や内容が全く不明瞭であるため、法第3条の2第2項における「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しない。」との解釈を示している(2024 年(令和6年)11月19日付「特定商取引に関する法律等の施行について」別添3「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針-再勧誘禁止規定に関する指針-」)。
 しかし、上記解釈では、家の門戸にあえて「訪問販売お断り」と記載された貼り紙を貼付しても、事業者による勧誘は禁止されず、消費者は個別に対応しなければならなくなり、その結果、望まない契約を締結させられる可能性がある。
 消費者庁の上記解釈は直ちに改められるべきであり、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された貼り紙を貼付するなど、あらかじめ訪問による勧誘行為を拒絶する意思を表明した場合が、「契約を締結しない旨の意思を表示した」(特商法第3条の2第2項)場合に該当し、事業者は訪問による勧誘をしてはならないこと(ステッカー方式によるDo-Not-knock制度)を条文上明らかにするべきである。

⑵勧誘拒否者に対する電話勧誘販売の規制
 判断能力等の低下により勧誘を断ることが十分期待できない消費者の存在を考えると、電話勧誘販売においても、訪問販売と同様、事前にかつ簡易に勧誘を拒絶できる制度が必要である。
 特商法第17条は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しているが、消費者が電話勧誘販売を行おうとする事業者一般に対して事前にかつ簡易に契約を締結しない旨の意思を表明する手段に乏しいため、消費者は、一旦事業者からの電話を受信することとなり、その結果望まない契約を締結させられる可能性がある。
 そこで、電話による勧誘行為を拒絶する意思を有する消費者が電話番号をあらかじめ登録機関に登録した場合、登録された電話番号に事業者が電話勧誘することを禁止する制度(Do-Not-Call制度)を導入すべきである。

⑶訪問販売業者、電話勧誘販売業者の登録制
 近年、SNS等を利用して実行犯を募集する手口により特殊詐欺や強盗等を広域的に敢行する匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による被害が深刻化している。トクリュウにより惹起される被害は、その匿名性により組織の活動実態をつかむこと自体が困難であり、流動性により事件ごとに構成員等も異なる可能性が高いことから、従来型の行政処分による対応では被害を防止することも難しく、事後の被害回復に至っては著しく困難である。
 このような匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)等の活動実態の明らかでない集団による被害予防に向けた対策が必要であり、訪問販売業・電話勧誘販売業について登録制を導入すべきである。

2 通信販売

⑴インターネット勧誘取引に対する規制
 現在、特商法に規定された取引形態のうち、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売については、行政規制として、(ア)氏名等の明示、(イ)再勧誘の禁止、(ウ)不実告知の禁止、(エ)故意の事実不告知の禁止、(オ)威迫困惑行為の禁止等が設けられているが、通信販売はかかる規制が設けられていない。 また、民事上の規定の中では、他の特商法の類型と異なり、通信販売のみ、クーリング・オフや不実告知による取消権が設けられていない。
 これは従来の通信販売が、消費者が自らカタログやウェブサイトを閲覧して申込みを行うことが想定されていたからであるが、近年は、例えば、SNS等を通じたメッセージ送付やSNS上で次々と表示される広告などの強い誘引力によって申込みに誘導される事例が増加しており、不意打ち性が高い点で訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題を抱えている。
 よって、インターネット勧誘取引について、訪問販売や電話勧誘販売と同様の行政規制を設けるとともに、クーリング・オフ、不実告知及び重要事項の不告知の場合の取消権を設けるべきである。

⑵ インターネット通信販売における継続的契約の中途解約権
 インターネットを通じた通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、役務の内容を把握しづらく、消費者が契約内容を十分に理解しないままに契約を締結してしまうことも少なくない。そのため、契約を締結した後に、消費者が想定していた役務内容と異なることや、想定していた成果が上がらないことがあり得る。しかし、継続的契約の場合、一度締結すると容易に解約できない場合もあり、また、解約できるとしても、高額な違約金を請求される例が多い。事業者側にしても、中途で解約される場合には、その後の役務提供が不要となるのであるから、不当に高額な違約金を認める必要性はない。
 よって、インターネット通信販売における継続的契約については、特定継続的役務提供と同様に中途解約権(理由を問わず将来に向かって契約を解消する解除の趣旨)を認め、その場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。

⑶インターネット広告画面に関する規制
 特商法第11条の広告表示義務の規定では、所要事項が広告のどこかに表示されていれば、それ自体に「著しく虚偽」又は「誇大な表示」がない限り、表示義務に違反していないと解される可能性がある。また、誇大広告等の禁止に該当するための要件(特商法第12条)は「著しく」等と抽象的かつ不明確である。
 よって、インターネット広告画面について契約内容の有利条件と不利益条件、商品等の品質や効能等が優良等であることを強調する表示とその意味内容を限定する打消し表示を、それぞれ分離せず一体的に記載するルールを設けるべきである。その上で、それに反する表示を特商法第14条第1項第2号の指示対象行為(顧客の意 に反して申込みをさせようとする行為)に加えるともに、禁止される表示例をガイドライン等で明確化すべきである。
 そして、誤認させる表示により誤認して申込みをした消費者に対し、その意思表示の取消権を付与するべきである。

3 連鎖販売取引

⑴連鎖販売業に対する開業規制
 近年、各種の投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)等の利 益収受型の物品又は役務を対象に販売を拡大する手法としてマルチ取引を用いる、いわゆる「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加している。勧誘方法も、特に若者を対象に、インターネット等を利用してメール、SNS等によるものが増加しており、組織の実態、中心人物の特定やその連絡先を知ることができず、自分を勧誘した相手方の素性も分からないなど、被害の回復が困難なケースが増えている。
 連鎖販売取引においては、単なる物品販売や役務提供とは異なり、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり取引を続けることが想定される。したがって、連鎖販売取引業者には、組織、責任者、連絡先等を明確化するとともに、取扱商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルが生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制等の明確化が求められる。
 そこで、事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性、適正性等を行政庁が事前に審査する手続を経た場合にのみ取引を行うことができるものとする開業規制を導入するべきである。

⑵後出し型連鎖販売取引に対する規制
 近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、すなわち特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」 という。)の事例が増加している。
 後出しマルチは、投資に関する情報商材やセミナー、自動売買ソフト、副業のコンサルタント・サポートなどの利益収受型の物品又は役務の契約が先行してなされるものが多い。容易に利益が得られるかのような誘引行為により、借入れをしてまで契約 の締結に至ったものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られない事態となった場面で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益が得られることを誘引文句として持ち出すことにより、借入金の返済に窮した契約者が自らも勧誘員として新規契約者の勧誘に走る。そして、後出しマルチの手法により勧誘員となった者は、販売対象の利 益収受型物品・役務の内容やそれを用いた投資に関する十分な知識を有しているものでもなく、むしろそれらが当初の説明どおりの価値のあるものではないことを認識した後に他の者を勧誘していることが想定されるため、新規契約者を獲得することによって利益を得ることを目的とした不当勧誘が繰り返されていくことにつながっている。
 よって、特商法第33条第1項を改正し、特定利益を収受し得る契約条件と特定負担を伴う契約を組み合わせた仕組みを設定している事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的としながら、特定負担に係る契約を締結する際には特定利益の収受に関する契約条件の存在を説明せず、特定負担に係る契約を締結した後に特定利益を収受し得ることを告げることを連鎖販売取引の規制対象とするべきである。

以 上