会長声明・意見

直ちにすべての人にとっての平等な婚姻制度を実現するための民法等の法改正を求める会長声明

2025年(令和7年)2月27日
山口県弁護士会
会長 鶴 義勝 
1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う訴訟(以下「結婚の自由をすべての人に訴訟」という。)が全国5箇所において提起されているところ、このたび、福岡高等裁判所は、令和6(2024)年12月13日の判決で、憲法13条、憲法24条2項及び憲法14条に反するとの判断を示した。
 特に、憲法13条違反を初めて認めた点は重要である。
 福岡高裁は、「幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利である」として、「両当事者が同性である場合には、婚姻にかかる法制度を設けず、法的保護を与えないことは、同性を伴侶として選択する者が 幸福を追求する途を閉ざすものである」と批判し、同性カップルを婚姻制度の対象外とする本件諸規定は幸福追求権の侵害であって憲法13条に反するものであると断じた
 また、本判決では、婚姻ではない別制度を設けるという立法の選択肢を14条に反するとして否定した点も画期的である。すなわち「幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有していると解されるから、同性カップルについて法的な婚姻制度の利用を認めないことによる不平等は、パートナーシップ制度の拡充又はヨーロッパ諸国に見られる登録パートナーシップ制度の導入によって解消されるものではなく」「同性のカップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ、憲法14条1項違反の状態は解消されるものではない」として、明確にこれを否定した。同性カップルに対して、婚姻に類似する別制度を設けるという余地を封じた極めて画期的かつ重要な判断である。
 これは憲法違反を解消するための立法の内容についても、憲法判断をもって示しているといえ、裁判所が国会の怠慢を積極的に非難しているというべき判決である。

2 結婚の自由をすべての人に訴訟では、札幌・東京(一次・二次)・名古屋・大阪・福岡の各地裁の判決が既に出され、大阪地裁を除くすべてにおいて憲法違反または憲法に違反する状態であるとの判断が示された。立法不作為に対する国家賠償請求の形をとり賠償請求に対しては棄却であったことからいずれも原告側が控訴していたところ、令和5年には3つの高裁判決が言い渡され、いずれも憲法違反が指摘された。
 すなわち、同年3月14日の札幌高裁判決では憲法24条1項により同性カップルにも婚姻の自由が認められるとして、憲法24条及び憲法14条1項違反が示された。
 また、同年10月30日の東京高裁判決も、札幌高裁判決に引き続き、明確に、本件諸規定が憲法14条1項及び憲法24条2項のいずれにも違反すると判断した。
 憲法違反の条文や理論構成は少しずつ異なるとはいえ、全国どの地域においてもほぼ憲法違反を指摘せざるをえない異例な事態にあるといえる。

3 これまで、政府は同性間の婚姻制度の導入のための調査を始めることもなく国会質問においても「極めて慎重な検討を要する」との紋切り型の答弁を繰り返すばかりで、国会は本件諸規定の法改正のための審議に着手していない。
 福岡高裁判決は、現時点での立法不作為による国家賠償責任は否定しつつも、「本件立法不作為すなわち本件諸規定を改廃等しないことは、国家賠償法上の責任を生じさせ得るものである」としており、国による立法行為を強く促している。
 もはや、同性婚の法制化をしないまま放置することは許されない。
 国は、直ちに同性カップルも異性カップルと等しく同じ婚姻制度を利用できるように本件諸規定の法改正をすべきである。

4 この点、石破茂首相は、令和6(2024)年12月5日の衆議院予算委員会において、従前の答弁を踏襲しつつも、「それ(※同性婚が認められないこと)によっていろいろな負担を持っておられる方々、そういう方々のお声を等閑視することはいたしません」と答弁した。また、同月17日の参議院予算委員会においては、同性婚が実現されれば、日本全体の幸福度にとってプラスの影響を与えるとも答弁している。これらは、従来の紋切り型答弁から一歩踏み込んだものと評価できるが、そうであれば具体的な立法作業に着手すべきである。

5 当会は、令和3(2021)年3月17日に札幌地方裁判所が憲法14条違反を示す判決を下した際には、「民法・戸籍法等の婚姻等に関する諸規定の速やかな改正を求めるとともに地方自治体における同性パートナーシップ制度の制定を推進する会長声明」を発表し、その後は同性婚の法制化を求めるとともに地域社会における理解の増進にも努めてきた。
 山口県及び県内市町に対し、地方自治体における同性パートナーシップ制度の制定を求め、また、令和5(2023)年3月31日の「内閣総理大臣秘書官による性的少数者に対する差別発言に抗議し、改めて法令上の性別が同じ者の婚姻を可能とする早期の法律改正を求めるとともに地方自治体における同性パートナーシップ制度の制定を推進する会長声明」及び同年10月12日の「理解増進法の制定を受け、改めて、性の多様性を尊重し、LGBTsの人権を擁護する地域社会の実現を求める会長声明」を発表し、地域の性的少数者(なお、多様な性のうち、割合として少数の側となる人々を総称する呼び方は様々あるが、以下、「LGBTs」と呼ぶ。)のためのイベントにも積極的に参加し、また講演会等も主催し、LGBTs電話相談も開始した。
 現在、山口県内では、宇部市、山口市、阿武町、山口県において同性パートナーシップ制度が制定された。また、いわゆるLGBT理解増進法に基づく啓発等の各施策も県内各自治体において実施されている。当会は地域社会におけるこれらの変化がLGBTsをエンパワーメントするものとして歓迎する。
 しかしながら、国が同性カップルを婚姻制度から排除したまま放置することは、それ自体によって差別と偏見を容認するメッセージが生み出されるのみならず、LGBTs及びその家族らに対して、スティグマ(烙印)をも与え、個人の尊厳を傷つけ続けるものである。これらは地方自治体の施策など地域社会における理解増進のみでは解消し得ないことである。
 以上より、当会は、同性婚の法制化はまさにいますぐに実現されるべきとの認識にたち、上記のとおりの異例なほど相次ぐ違憲判決を受けて、LGBTsを含めたすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求めるとともに、当会もまたその実現に向け、 努力を続ける所存である。

 以 上