会長声明・意見
直ちに民法750条を改正して選択的夫婦別姓制度を導入することを求める会長声明
2024/12/04
しかし、「氏名」は個人の人格の象徴であり、人格権の一部を構成するものであるにも関わらず、婚姻に際して、氏の変更を強制されない自由が不当に制限されているという点で憲法13条に違反する。また、夫婦が同姓を選択しない限り婚姻による法的効果を享受できないという点で憲法14条に違反し、夫婦が同姓でなければ婚姻できないといった、両性の合意以外の要件を付すことは、憲法24条1項が定める「婚姻の自由」を不当に制限するものである。
令和3年6月23日の最高裁判所大法廷決定では、上記民法などの規定は合憲であるとの判断がなされているが、4人の裁判官は違憲であるとの反対意見を示した。そして、多数意見においても、合憲であるとの判断をしたものの、積極的に夫婦同姓制度に賛同しているものではなく、「制度の在り方は、平成27年大法廷判決の指摘するとおり、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」としている。
ところが、夫婦同姓制度を解消するための選択的夫婦別姓については、平成8年2月に法制審議会が「民法の一部を改正する法律要綱案」を答申したものの、結局、法案提出が見送られたままであり、その後も、本問題は放置されていると言わざるを得ない。
民法750条の規定は、夫又は妻のいずれかが他方の姓に変更しなければならないというものであり、一見すると男女間の不平等はないように思われる。しかしながら、実際には、婚姻した夫婦の約95%において女性が改姓して男性の姓に合わせるという形をとっており、いわゆる無意識バイアスや女性の社会的経済的立場の弱さから事実上女性が不利益を受けていることは明らかである。
海外では各国が夫婦同姓を強制する制度を廃止しており、平成30年3月20日衆議院法務委員会において法務省は「法務省が把握している限りでは、現在、婚姻後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならない夫婦同氏制を採用している国は、我が国以外にはございません。」と答弁した。国際的に日本のみが立ち後れているといえる。
令和6年6月18日、一般社団法人日本経済団体連合会は「選択肢のある社会の実現を目指して~女性活躍に対する制度の壁を乗り越える~」を発表し、「通称」使用では解決が困難な課題も少なくなく、女性が活躍する社会においては、「通称」使用に伴う課題が、企業にとっても、ビジネス上のリスクとなり得る事象であると断じ、選択的夫婦別姓制度の導入を求めた。
このように、民法750条が定める夫婦同姓を強制する制度は憲法に反するものであって、多様性を重視する社会の趨勢ともかけ離れたものである。そして、「通称」使用では、解決が困難な課題も少なくなく、経済界からも、選択的夫婦別姓制度の導入が求められているところである。
国は、これまで通称名の使用を広く認めることによって、改姓に伴う不利益を回避できるとの姿勢をとってきた。しかしながら、姓は人格権の内容をなすものであり、通称名と戸籍名を併用することは、単なる利便性の問題を超えて、個人のアイデンティティの喪失につながる問題である。また、世界の主な国で日本以外に法律で夫婦同姓を強制している例は見当たらないという現状を見ると、通称名と戸籍名の併用が海外において理解されるとも思えない。
法制審議会が選択的夫婦別姓制度を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」を法務大臣に答申したのは平成8年であり、実現されないまま既に28年が経過している。その間、日本政府は、国連の女子差別撤廃委員会から三度にわたって、女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を勧告されている。
なお、選択的夫婦別姓制度の導入により、家族の一体性が損なわれるという意見がある。しかしながら、夫婦別姓制を採用している諸外国において、家族の一体感が弱まっているというような報告は聞かない。個人が婚姻において同姓を選択することはもとより自由ではあるが、別姓を選択したいという者の自由を国が制約するいわれはないはずである。様々な夫婦や家族の形態を許容することが、多様で寛容な活力ある社会を生み出すというべきである。
当会は、平成27年5月25日付けで「夫婦同姓の強制及び再婚禁止期間等 民法の差別的規定の早期改正を求める会長声明」を発表し、選択的夫婦別姓制度の導入を求めてきたが、改めて国に対し、夫婦同姓を義務付ける民法750条を直ちに改正し、選択的夫婦別姓制度を導入するよう求める。
令和6年12月4日
山口県弁護士会 会長 鶴 義勝
山口県弁護士会 会長 鶴 義勝