会長声明・意見

旧優生保護法国家賠償請求訴訟の最高裁判所判決を受けての全面的な被害者救済のための法整備を求める会長声明

2024/09/03
1 2024年7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法のもと強制不妊手術を受けた被害者たちが国家賠償を求めた裁判において、国に対し、損害を賠償するよう命じる判決を言い渡した。

2 1948年に成立した旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという目的を実現するため、特定の疾病や障がいを有する者の生殖能力を失わせる強制的な不妊手術や人工妊娠中絶手術を実施してきた。
 1996年に同法が改正され、優生政策に関する条文が削除されるまで、記録で確認できる限りでも約2万5000件もの不妊手術及び約5万9000件もの人工妊娠中絶手術が実施され、人としての尊厳が踏みにじられてきたものとなる。
 しかし、優生政策に係る条文の削除以降においても、国は被害者救済に関心を払ってこなかった
 2015年、被害者の1人が日弁連に対し人権救済申立てを行い、2017年以降、日弁連もまた旧優生保護法の問題に焦点をあてた意見書を発表していった。そして、2018年1月、被害者の1人が国家賠償請求訴訟を提起したのを皮切りに、各地で訴訟提起が続くに至っている。

3 最高裁判決においては、旧優生保護法の不妊手術に関する規定が、憲法13条及び憲法14条1項に反し、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であるとされた。また、上記規定に係る国会議員の立法行為は、それ自体が、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものとした。
 そして、国が、除斥期間の経過により被害者たちの損害賠償請求権が消滅したと主張することは、著しく正義・公平の理念に反し到底容認することができず、権利の濫用として許されないと判示した。

4 本件は、国の違法な立法行為によって、特定の疾病や障がいを有する人々を不良であるとして、その生殖能力を喪失させるという重大な人権侵害をもたらした事案である。
 根本的に誤った施策を実行した国は、速やかに全面的な被害回復の措置を実施して、もって、同施策によって傷つけられた個々の被害者の尊厳の回復を実現させなければならない。
 この点、最高裁判決の補足意見でも言及されているように、2019年に成立した一時金支給法は損害賠償責任を前提としておらず、一時金の金額が十分とはいえない。さらには一時金の支給認定を受けた人数は、2024年月5末時点で1110件とされており、不妊手術や人工妊娠中絶手術を受けた被害者のごく一部に留まっている。
 「優生保護法の施行について」と題する1953年6月12日の厚生事務次官通知(同日厚生省発衛第150号)において、これらの手術を行う際に欺罔等の手段を用いることも許される場合があるとされるように、被害者の中にはそれが不妊手術であると知らされていない者も存在する。あるいは 不良」と差別されたことから、声をあげることを躊躇する被害者もいる。
 現在においても厳然として続く優生保護法問題を全面解決するため、国は全ての被害者を救済し、その尊厳を回復することができる、新たな補償法を速やかに制定すべきである。

以 上


2024年(令和6年)9月3日
山口県弁護士会会長 鶴 義勝