会長声明・意見

宇部拘置支所の収容業務の再開を求める会長声明

2023/04/25
第1 はじめに
1 令和5年3月31日をもって、宇部拘置支所の収容業務が停止された。
 令和5年3月30日に広島矯正管区及び山口刑務所の職員(以下「矯正当局」という)から当会に対して行われた説明によれば、宇部拘置支所の収容業務は恒久的に停止される見込みとのことであった。

2 当会は、この問題に関し、令和5年1月24日付で「宇部拘置支所の収容業務停止に強く反対する会長声明」(以下「第一次声明」という)を発出した。
 第一次声明では、収容業務の停止がはらむ問題点について網羅的に指摘したが、本声明では、その後に明らかになった収容業務停止に至るプロセスに焦点を当てて、再度、宇部拘置支所の収容業務停止決定の再考を強く求めるものである。


第2 第一次声明発出後に明らかになった収容業務停止に至るプロセス
1 第一次声明発出後に矯正当局から当会に関係文書の一部が開示された。
 それによれば、
① 令和2年より前に法務省矯正局において宇部拘置支所の収容業務停止が検討されていたこと
② 令和2年4月1日に、法務省矯正局が広島矯正管区に対し、宇部拘置支所の廃庁を前提として、収容業務を停止する方向で検討すべきと考えていることを伝えた上、同年4月30日までに意見を法務省矯正局まで提出するように求めたこと
③ 令和2年4月10日に、広島矯正管区が山口刑務所に対し、宇部拘置支所の収容業務停止についての意見を提出するように求めたこと
④ 令和2年4月22日に、山口刑務所が広島矯正管区に対し、宇部拘置支所の今後の取り扱いについての意見を提出していること
⑤ 山口刑務所は、④の意見の提出に当たり、山口地方検察庁宇部支部、山口地方検察庁に対し説明等を行っていること
⑥ ⑤の際、山口刑務所は、山口地方検察庁宇部支部の支部長からの意見聴取において、支部長から、過去に萩拘置支所を機械警備にした際に、当会が強い抗議をしたなどの経緯から裁判所及び弁護士会への配慮を求め、それに対し「承知した」などと述べたにもかかわらず、山口刑務所が当会に意見聴取を求める等の対応をとらなかったこと
⑦ 令和4年1月31日付で、法務省矯正局が、山口刑務所に対し、広島矯正管区からの意見を踏まえて、令和4年度をもって、宇部拘置支所の収容業務を停止する方向で決定したと伝えたことが明らかとなった。

2 問題点
(1) 開示文書からも明らかであるが、宇部拘置支所の収容業務停止は、専ら効果的な組織運営の確立、職員負担の軽減と平準化等の観点からのみ検討され、決定されており、検討過程が不十分である。
 その原因は、ひとえに関係機関、とりわけ当会から意見聴取をしなかったことに由来する。
(2) すなわち、前述のとおり、法務省矯正局が宇部拘置支所の収容業務を停止する方向で最終的に決定したのは、遅くとも令和4年1月31日である。
 したがって、山口刑務所が令和2年4月の時点で、宇部拘置支所の今後の取り扱いについて、当会から意見を聴取するなど適切な対応を講じていれば、当会は、第一次声明で指摘した観点(刑事政策観点からの悪影響、被疑者・被告人の弁護人や家族との接見交通権の不当な制約等)から意見を述べることができた。
(3) 萩拘置支所は、検察官が萩警察署管内の身柄事件について、萩拘置支所を勾留場所に指定しないという運用の下、機械警備(無人化)を経て、廃庁に至ったものであるが、宇部拘置支所は、主として宇部警察署及び山陽小野田警察署管内の身柄事件の勾留場所として活用されていたものであり、収容業務が停止された場合の影響が大きいと容易に考えられることからすれば、矯正当局は、当会から、宇部拘置支所の今後の取り扱いについて意見を聴取すべきであった。
 しかるに、矯正当局は、前述した山口地方検察庁宇部支部長から裁判所及び弁護士会への配慮を求めるとの意見が出されていたにもかかわらず、令和4年9月に、この問題に関して当会への最初の説明を行うまでの2年以上に亘って当会に対し、宇部拘置支所の収容業務が停止される方向で検討されていることを伝えないまま、宇部拘置支所の取り扱いについて当会が適切な時期に、適切な意見を述べる機会を奪った上、宇部拘置支所の収容業務停止を強行したものであり、断じて認め難い。
(4) 弁護士会は、国選弁護人を推薦するなど刑事司法制度の一翼を担っており、弁護士会の所在地にある拘置(支)所という刑事施設の存廃について、被疑者・被告人の利益の代弁者として強い利害関係を有するものである。
 そのような弁護士会に事前の意見を述べる機会を与えないままなされた宇部拘置支所の収容業務停止決定は、瑕疵ある政策決定と言わざるを得ず、再考されなければならない。


第3 結び
 繰り返しになるが、山口県において、拘置支所の廃庁・収容業務停止が強行されるのは、萩拘置支所に引き続いて2度目であり、当会としては到底容認できない。
 拘置支所は地域住民のための重要なインフラなのであって、第一次声明を発出した後、宇部市議会、山陽小野田市議会、山口県議会が、党派を超えて、宇部拘置支所の収容業務の継続を求める意見書を採択している。このような地域の声は、国政においても最大限尊重されるべきである。
 国においては、宇部拘置支所の収容業務停止決定を再考し、速やかに収容業務再開のための措置をとることを強く求めるものである。

以 上

2023年(令和5年)4月21日
山 口 県 弁 護 士 会
会 長 松田 訓明