会長声明・意見

改善基準告示における自動車運転者の休息期間を連続して11時間以上と定めることを求める会長声明

2022年(令和4年)5月31日
                         山口県弁護士会
                         会長 田 中 礼 司
第1 意見の趣旨

 山口県弁護士会は、厚生労働省に対し、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号)の見直しに当たり、自動車運転者の休息期間を連続して11時間以上と定めることを求める。

第2 意見の理由

 我が国の労働時間法制と国際的規制の推移
 我が国の労働時間法制は戦後制定された労働基準法の労働時間を1日当たり原則として8時間を上限とする法制を基本としていたが、労働基準法第36条に基づく労使間の協定の存在や休息時間に関する法制度の不備のため、長時間労働の横行と過労死や精神疾患に関する労災補償請求件数・支給決定件数が高水準で推移していた。
 国際連合の専門機関である国際労働機関(ILO)は、1979年という今から30年以上前の段階で、ILO勧告(第161号)において、1日当たりの休息時間を連続11時間とするように求めている。また、2006年のEU規則(No561)においても、休息時間は1日当たり原則として11時間と定めている。
 かかる労働時間法制の実態及び国際基準の動向に鑑み、長時間労働の弊害を是正するため、政府は働き方改革実現本部を設置し、2018年(平成30年)7月6日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号、以下「働き方改革関連法」という。)を制定し、労働時間に関する関係法律の改正や見直しを進めている。

 日本弁護士連合会の提言
 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)も、2014年(平成26年)11月21日付けで「労時間法制の規制緩和に反対する意見書」において、長時間労働を是正するための法制度の早急な構築を求め、さらに、2016年(平成28年)11月24日付けで「『あるべき労働時間法制』に関する意見書」において、全ての勤労者について、連続11時間以上の休息時間(勤務間インターバル)を付与することを求めた。

 自動車運転者に関する労働時間法制の実情
 働き方改革関連法制定後、殆どの業務において、三六協定における時間外労働の上限は年720時間以内となった。しかし、自動車運転業務においては、2024年(令和6年)4月まで同法の施行が猶予され、時間外労働時間の上限も年960時間以内と緩和されている。
 しかし、自動車運転業界は深刻な人手不足に陥っており、他業種に比較して高年齢化が進んでいるため、過労死や精神疾患のリスクも他業種より高くなっている。また、自動車運転という業務の特徴として、自動車運転者自身の健康被害だけでなく、交通事故を惹起することにより道路を通行する他の運転者や歩行者等にも被害を及ぼす危険性も存在する。
 そのため、国会は、働き方改革関連法を制定する際、附帯決議として、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号、以下「改善基準告示」という。)の見直しを求めた。

 改善基準告示の見直しの内容
 自動車運転者の労働条件における重要なポイントが休息時間の確保である。
 改善基準告示第4条第1項第3号によれば、現在自動車運転者の休息時間については連続8時間以上とされている。
 しかし、人手不足や高齢化が進行している自動車運転業務において、連続8時間以上という休息時間では不十分である。
 まず、健康維持の観点から見た場合、休息時間を確保できないのであれば、睡眠時間が削られ、脳・心臓疾患の発症リスクが高まることは明らかであって、脳・心臓疾患の労災基準である「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」も、2021年(令和3年)9月14日改正において、勤務間インターバルが短い勤務を労働時間以外の負荷要因として追加するに至っており、労災基準の上でも休息時間の重要性を認めたものと評価できる。
 また、過労死や心臓疾患といった健康面の問題だけでなく、相当な休息時間の確保は自動車運転者やその家族の生活を守るためにも重要である。食事や入浴、自宅との往復、家族との会話といった人間らしい生活の維持のためには連続11時間以上の休息時間がどうしても必要である。

 使用者側の主張とそれに対する反論
 休息時間の確保について、使用者側は、荷種や業務の形態別に異なる基準を設けられないのであれば、現行どおり休息時間は連続8時間以上とすべきとの主張をしている。
 しかし、これまで述べてきたように、高齢化による健康面でのリスクが特に大きい自動車運転業務においては、現行の8時間以上という規制を改正して相当な休息時間を確保する必要性は他業種に増して高い。
 また、働き方改革関連法の猶予期間はあと2年近くも残っており、その間の自動車運転者の健康維持や人間らしい生活の確保のためには、改善基準告示の見直し手続の中で連続11時間以上の休息時間を付与することが急務である。

 まとめ
 よって、山口県弁護士会は、改善基準告示の見直しを行う厚生労働省に対し、同告示における自動車運転者の休息時間を連続して11時間以上と定めることを求める。
以  上