会長声明・意見
地方消費者行政の充実・強化のための継続的な財源措置を求める会長声明
2017年(平成29年)9月27日
山口県弁護士会 会長 田畑元久
山口県弁護士会 会長 田畑元久
ところで、消費者被害は、加害者の特定の困難性や資力の問題等により、一度被害が発生してしまうと被害回復が困難であることが多い。そのため、消費者被害対策においては、被害の未然防止が特に重要となる。そして、消費者被害を未然に防止するためには、消費者が、消費者被害の実態(加害者の手口等)やいざという時に相談できる適切な相談窓口を予め把握しておくことが有効である。したがって、地方消費者行政においても、消費者に対して消費者被害の実態や消費生活センター等の相談窓口の存在について周知するための啓発活動が非常に重要となる。
なお、現在、成年年齢引き下げを含む民法改正について様々な議論がされているところであるが、この問題について内閣府消費者委員会成年年齢引き下げ対応検討ワーキング・グループが本年1月にとりまとめた報告書においては、民法改正によって成年年齢が18歳に引き下げられた場合に新たに成年となる18歳、19歳の消費者被害の防止・救済対策における消費者教育の充実や消費生活センターの周知等の重要性が指摘されている。こうした社会情勢を踏まえると、地方消費者行政における啓発活動は、今後ますますその重要性を増していくことになる。
この点、山口県においては、地方消費者行政の充実のために2008年度(平成20年度)から交付措置が行われている「地方消費者行政活性化基金」(以下、「基金」という。)及び同基金の後継制度である「地方消費者行政推進交付金」(以下、「交付金」という。)を活用し、消費生活センターの設置、消費生活相談員の確保・増員、消費生活相談員を対象とした研修の実施(研修への参加の支援)等の消費生活相談体制の充実・強化はもちろんのこと、消費者向けの出前講義の実施、啓発チラシ等の配布、マスメディアを活用した広報の実施等の啓発活動を行ってきた。当会も、消費生活センターと共同で高等学校での出前講義を実施する等、地方公共団体とともに消費者への啓発活動に取り組んできたところである。
そして、こうした基金、交付金を活用した活動は、消費生活センターへの相談件数の増加や、あっせん件数の増加(あっせんによる救済金額の増加)といった具体的な成果に結びついている。
ところが、交付金の適用対象事業は2017年度(平成29年度)までの新規事業に限定されているため、2018年度(平成30年度)以降に新規事業を実施しようとする場合にはそのすべての費用を自主財源によって賄わなければならない。また、現在交付金の適用対象となっている事業に関しても、交付金の活用期間について事業毎に終期が設定されているため、各地方公共団体は、現在交付金を活用して行っている事業についても、近い将来そのすべての費用を自主財源によって賄わなければならなくなる。しかし、各地方公共団体の財源には限りがあるため、自主財源のみでは新規事業を実施することはもちろんのこと、既存事業の規模を現状のまま維持することも困難であり、事業の見直しが避けられない情勢である。現に山口県内の多くの市町は、基金、交付金を活用して整備した消費者相談体制については自主財源による維持を目指しつつ、啓発活動については交付金活用期間経過後も行う事業を精査していくという方針を打ち出している。このままでは消費者被害防止の要である啓発活動の後退は必至であり、延いてはこれまで進めてきた地方消費者行政全体が大きく後退することになりかねない。
そこで、当会としては、国に対し、地方公共団体がこれまで進めてきた消費者行政をさらに充実・強化していくための継続的な財源を早期に措置するよう要請する。