会長声明・意見
刑事再審手続に関する要綱(骨子)に反対し、議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明
2026/03/03
第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を設け、裁判所が再審請求について調査した結果、「理由がないことが明らかである」と認めるときは、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することを義務付けている。
過去の再審無罪事件を見ると、再審請求後に新たに開示された証拠が新証拠となって再審開始・再審無罪に至る場合が多い。しかし、このような規定が設けられた場合、調査手続の段階では、裁判所は証拠の提出命令を行うことが禁止されるため、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで再審請求が速やかに棄却されるおそれがある。確かに、再審請求について一定範囲での要件を認めることはやむを得ないとはいえるが、要綱(骨子)での要件では、請求が棄却される範囲が広くなりすぎるおそれがある。
第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象を「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに限定している。
無罪につながる証拠が捜査機関の手元にあることが多いことは、過去の再審無罪事件からも明らかであるが、そこに辿りつくためには、再審請求人や弁護人がその主張立証を準備するために必要な証拠が幅広く開示されなければならない。しかし、要綱(骨子)によれば、裁判所が再審請求の判断をするために必要かつ相当と認めて証拠の提出を命じない限り、弁護人は、捜査機関が保管する証拠を閲覧・謄写することができない。これでは、無罪につながる証拠の発見はおぼつかない。このような限定がなされると、今般、再審無罪になった袴田事件や福井女子中学生殺人事件(以下「福井事件」という。)でも、再審開始及び無罪につながった重要証拠が開示されなかったといえる。
しかも、要綱(骨子)は、開示証拠の目的外使用禁止についても定めている。このような規定が設けられた場合、例えば新証拠の獲得に向けた活動において開示証拠を支援者に交付することも、目的外使用にあたるのではないかとの懸念から、これを躊躇するおそれがあり、えん罪被害者の救済を困難にさせる。
第3に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止(廃止)していない。
過去の再審無罪事件を見ると、検察官は、ほぼ全ての事件で機械的に不服申立てを行っている。しかも、福井事件の第1次再審請求では、検察官は、自らの主張と矛盾する重要な証拠を隠したまま、再審開始決定に対して不服申立てを行い、その結果、再審開始決定が誤って取り消されている。このような「公益の代表者」としてあるまじき検察官の対応によって、えん罪被害者の速やかな救済が阻害されているのが実情である。にもかかわらず、要綱(骨子)は、これまでどおり、再審開始決定に対して検察官が不服申立てを行うことを無制限に認めている。
そして、本年2月24日、最高裁判所第二小法廷は、いわゆる日野町事件(1984年(昭和59年)12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生したとされる強盗殺人事件)の第二次再審請求事件において、検察官による特別抗告の棄却を決定し、2018年(平成30年)7月11日の大津地方裁判所による再審開始決定が確定した。
この第二次再審請求においては、警察が検察官に送致していなかった引当捜査時の写真のネガが開示されたことで、被害品(金庫)発見現場までの案内経過の写真の入れ替えや、死体遺棄状況の再現を繰り返し練習させていたことなどの違法・不当な捜査の実態が明らかとなり、再審開始の判断へとつながった。このことは、上記第2に関して、捜査機関が裁判所に提出することなく保管している証拠までも開示させることが、えん罪被害者を救済するためにいかに重要であるか、そして、要綱(骨子)での限定された証拠開示では不十分であるかを現に示している。
さらに、大津地方裁判所による2018年に出された再審開始決定から約8年もの相当長期の歳月が経過しているが、その原因の大きな要因は、検察官の2度にわたる不服申立て(大阪高等裁判所への即時抗告と、上記最高裁への特別抗告)によるものである。上記第3のとおり要綱(骨子)では検察官の不服申立て禁止が盛り込まれなかったが、今回の決定に至るまでの経緯は、えん罪被害者の迅速な救済のためには、不服申立て禁止が不可欠であることも明確に示している。
そもそも、要綱(骨子)は、法制審議会刑事法(再審関係)部会の審議を経て作成されているが、同部会の委員・幹事の人選も含め、その審議を主導していたのは、検察官が要職を占める法務省事務当局である。これでは、えん罪被害者のための再審法改正は期待できず、同部会の審議に対しては、えん罪被害者やその家族のみならず、多くの刑事法研究者や元裁判官、さらには全国各地の報道機関からも深刻な懸念が表明されていた。そして、本年2月12日に開催された法制審議会総会でも、要綱(骨子)については、会長を除く出席委員17名のうち4名が反対の意見を表明し、1名が棄権するなど、幅広い合意が形成されたとは言い難い。このように、要綱(骨子)の内容は、これまでの審議過程からして、公正性、中立性、専門性に疑問があり、再審法改正を求める国民の意思からも乖離している。
ところで、再審法改正に関しては、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議連法案」という。)を取りまとめ、 昨年(2025年)6月に衆議院に提出していた。議連法案は、再審制度によってえん罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする観点から策定されたものであって、えん罪被害者の迅速かつ容易な救済を指向するものである。また、その内容を見ても、再審請求手続における検察官保管証拠等(送致書類等目録を含む。)の開示を幅広く認めるとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止(廃止)している点などは、要綱(骨子)よりも優れており、高く評価できるものである。本年1月の衆議院解散により一旦廃案となったが、現在の特別国会においても、改めて同内容の法案が議員立法として速やかに提出され、審議の上、成立に至ることが望ましい。
当会としても、これまで、2024年2月26日の定期総会で「再審法改正を求める総会決議」を採択し、さらに、同年9月26日付け「「袴田事件」の再審無罪判決を受けて、改めて再審法の速やかな改正を求める会長声明」、2025年9月26日付け「令和7年秋の臨時国会で議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明」を発出するなど、えん罪被害者の救済に資するための速やかな再審法改正を求める活動を行ってきた。
当会は、上記のような問題点を含む要綱(骨子)に反対するとともに、再審法改正の中核をなす部分については、議員立法により議連法案のとおり速やかに成立させることを改めて求める。
2026年(令和8年)3月3日
山 口 県 弁 護 士 会
会 長 浜 崎 大 輔
山 口 県 弁 護 士 会
会 長 浜 崎 大 輔





