会長声明・意見
在日米軍への検疫法の適用に関する会長声明
2022/03/29
検疫法は,国内に常在しない感染症の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに,船舶又は航空機に関してその他の感染症の予防に必要な措置を講ずることを目的とする法律であるところ,同法は,新型コロナウイルス感染症を検疫感染症と定め,新型コロナウイルス感染症の患者及びその疑いのある者に対して感染防止に必要な措置を行い,患者には隔離を,疑いのある者には停留を求めることができるものとされている。
我が国において,出入国管理と検疫とは,そもそも趣旨・目的を異にする全く関係のない法制度である。検疫は,国民の健康と安全を守るためのきわめて重要な国家作用であるが,日米地位協定上,検疫についての明文の規定が設けられていないのであるから,米軍人等が我が国の検疫手続を免除される理由はないはずである。
ところが,我が国と米軍との間では,検疫に関し日米合同委員会合意で取決めがなされており,米軍人等の検疫は原則として米国側の手に委ねられ,加えて,国内法令である米軍航空機・米軍艦船について検疫法の適用を除外する効果をもたらす法令(以下,「外国軍用艦船等に関する検疫法特例」という。)が検疫法の多くの規定を適用除外としている。そのため,我が国はほとんど米軍人等の検疫に関与できなくなっている。
米軍人等の検疫について,我が国以外の例を見ると,例えば,ドイツでは,駐留軍もドイツ国内法による感染症防止のための手続に服する旨の明文規定が置かれている(NATO軍地位協定のボン補足協定54条1項)。また,オーストラリアでも,オーストラリアの検疫法が適用されることが明記されている(米豪地位協定13条)。
令和3年末からの新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大については,沖縄県のキャンプ・ハンセンや山口県岩国市の米海兵隊岩国航空基地で米軍人等の感染者の大規模なクラスターが発生し,これと連動して,沖縄県や山口県における局地的な感染が生じ,さらには山口県と隣接する広島県に居住する一般住民にも感染が拡大したとの経過を辿ったところであり,この原因に米軍関係者からの感染が端緒となっていることに凡そ疑いはない。
その後の流行状況からすれば,最終的には全国的なオミクロン株の感染自体は免れなかったと考えられるとはいえ,先行して生じた地域的な感染拡大により,山口・広島・沖縄の各地域の住民生活や経済に与えたダメージは極めて大きく,その原因が上記の検疫法の適用除外にあるとすれば極めて遺憾なものと指摘せざるを得ないし,今後も,新型コロナウイルスの新たな変異種のみならず未知の感染症も想定するとき,同様の問題が繰り返されるようなことは絶対に許されるべきものではない。
ついては,国民の生命・健康・生活の保持の観点から,ドイツの補足協定や米豪地位協定のように,米軍人等の検疫を国内法上の規制に服せしめる旨の明文規定を日米地位協定の中に置くとともに,外国軍用艦船等に関する検疫法特例は廃止して,早期に適切な検疫管理を実現すべきである。
2022年(令和4年)3月25日
山 口 県 弁 護 士 会
会長 末永 久大
山 口 県 弁 護 士 会
会長 末永 久大