会長声明・意見
最低賃金額の引き上げ等を求める会長声明
2021年(令和3年)5月20日
山口県弁護士会
会長 末 永 久 大
山口県弁護士会
会長 末 永 久 大
厚生労働大臣は,本年6月頃,中央最低賃金審議会に対し,令和3年度地域別最低賃金額の目安について諮問を行い,本年7月頃,同審議会から,答申を受ける見込みである。
昨年,同審議会は,目安を定めず,事実上据え置きを認める答申を行い,各地の地域別最低賃金審議会は,これに基づき,答申を行った。その結果,令和2年度の地域別最低賃金は,902円(全国加重平均で前年度より1円引き上げ)となった。
なお,山口県の地域別最低賃金は,山口地方最低賃金審議会が据え置きを認めたため,829円のまま据え置かれた。引き上げを行わなかったのは,山口県を含む僅か7都道府県に過ぎなかった。
時給829円では,1日8時間,週40時間働いても,年収172万4320円(829円×40時間×52週)、月収14万3693円(172万4320円÷12ヶ月)にしかならない。
一部の経済団体は,コロナ禍が収束しないことなどを理由に,最低賃金を現行水準で維持することを求めているが,日本の最低賃金は,世界的に見ても極めて低い水準にあり,労働者の生活を守るためには,最低賃金を引き上げて公正な賃金を支払う必要がある。
2 諸外国は,コロナ禍においても最低賃金を引き上げている
イギリスは,2021年4月、成人(25歳以上)の最低賃金を8.72ポンド(約1273円)から8.91ポンド(1300円)に引き上げた(1ポンド146円で換算・端数切り捨て)。
フランスは,2021年1月、法定最低賃金(SMIC)を10.15ユーロ(約1289円)から10.25ユーロ(約1301円)に引き上げた(1ユーロ127円で換算)。
ドイツは,2021年1月、最低賃金を9.35ユーロ(1187円)から9.50ユーロ(約1206円)へ引き上げた。今後も、同年7月に9.60ユーロ(1219円),2022年1月に9.82ユーロ(約1247円),同年7月に10.45ユーロ(1327円)と段階的に引き上げる予定である。
このように,コロナ禍でも多くの国で最低賃金の引き上げが実現しているから,わが国でも令和3年度の大幅引き上げが必要である。
3 地域間格差の拡大
最低賃金の地域間格差は,依然として大きく,拡大を続けている。令和2年度の最低賃金は,最も高い東京都は1013円であるが,最も低い7県(秋田・鳥取・島根・高知・佐賀・大分・沖縄)は792円であり,最大格差は221円となった。
都市部への労働力の集中を緩和し,地域に労働力を確保することは,地域経済も活性化する。都市部の一極集中を回避するためにも,最低賃金の地域間格差は、縮小しなければならない。
4 中小企業・小規模事業者の支援
国は,中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し,事業場内最低賃金の引き上げを図るため,「業務改善助成金」制度を行っているが,必ずしも使い勝手の良い制度ではないため,令和元年度の支給決定件数は542件しかなかった。
中小企業・小規模事業者の多くは,最低賃金引上げに対応するために必要と考える支援策として,「税負担等の軽減」を挙げている。
したがって,国は、最低賃金の引き上げにともない,中小企業・小規模事業者の経営が圧迫されないよう,助成金制度や補助金制度を使い勝手のよいものに変え,さらには税金や社会保険料の大胆な減免措置を講じるなど,税負担等の軽減を図る措置を図るべきである。
5 審議会の議事録等の公開について
当会は,これまで山口地方最低賃金審議会の議事録等をホームページで公開するよう求めてきたが,山口労働局は、厚生労働省からの指示に基づき,令和2年度から同審議会の議事録等をホームページに掲載するようになった。
情報公開の流れの中,議事録等がホームページで公開されたことは,最低賃金に関する県民の理解と関心を促進し,審議会等のさらなる透明化を図るものであり,当会としても歓迎したい。引き続き,議事録等をホームページで公開するよう求める。
6 委員の任命
最低賃金審議会の委員は,労働者を代表する委員,使用者を代表する委員及び公益を代表する委員によって組織されるところ(最低賃金法第22条),前二者は関係労働組合又は関係使用者団体からの推薦に基づき任命されている(最低賃金審議会令第3条)。
このうち,労働者を代表する委員は,非正規労働者を数多く組織する関係労働組合からも任命されることが望ましい。なぜならば,非正規労働者は就業関係が不安定で最低賃金の影響を受けやすく,全労働者の3分の1以上を占めているからである。
また,公益を代表する委員は,最低賃金の額が貧困問題の解決と密接に関係することから,生活困窮者の就労支援等を行っている団体の出身者及び社会保障法を専門とする学者からも任命することが望ましい。
10 まとめ
よって,当会は,次のことを求める。
① 中央最低賃金審議会及び山口地方最低賃金審議会は,労働者の健康で文化的な生活を確保し,地域経済の健全な発展を促し,政府目標に少しでも近づけるため,最低賃金の引き上げに向けた答申をすること。
② 国会及び厚生労働大臣は,最低賃金の大幅な引き上げに当たり,助成金制度や補助金制度を使い勝手のよいものに変え,さらには税金や社会保険料の大胆な減免措置を講じるなど,中小企業・小規模事業者の経営に十分配慮した施策を行うこと。
③ 山口地方最低賃金審議会は,引き続き審議会の議事録等をホームページで公開する措置を講じること。
④ 厚生労働大臣及び山口労働局長は,非正規労働者を数多く組織する関係労働組合からも労働者代表委員を任命し,また、生活困窮者の就労支援等を行っている団体の出身者及び社会保障法を専門とする学者からも公益代表委員を任命すること。
以 上