会長声明・意見

山口地方裁判所管内の各支部において労働審判の実施を求める会長声明

平成27年8月7日
山口県弁護士会 会長 清水弘彦
1 平成18年4月に始まった労働審判は,個別労働紛争(個々の労働者と使用者間で生じた解雇,給与や時間外手当等の支払等をめぐる紛争)を,裁判所において迅速,適切かつ実効的に解決することを目的とした制度である。
労働審判では,裁判官1名と,労働審判員となる労働者側または使用者側で労働関係に精通した者各1名,合計3名による原則3回以内の審理により,一定の結論が「審判」という形で出される。当事者から異議がなければこの審判に従うことになり,異議があれば通常の裁判に移行する。
  労使双方からの精通者である労働審判員が審理に関与することから,迅速,かつ,実情に即した柔軟な結論が出されるとして,審理の中で双方当事者の合意による「調停」が成立することも多く,審判が出されても異議が出されずに確定することもかなりある。この労働審判における解決率(調停成立,申立ての取下げまたは労働審判に異議が出されずに確定したことにより,手続が終了した割合)は,平成26年に終結した全国の労働審判事件で84.6%もあり,紛争解決制度の中では非常に高くなっている。
  このように労働審判は,個別労働紛争を早期に実効的な解決ができることから,労使双方から概ね高い評価を受けている。実際にも制度開始以来,全国的には労働審判事件の申立件数は増加しており,全国で平成19年に労働審判が申し立てられた件数は1494件であったが,平成21年には3468件にまで急増し,平成26年も3416件となっている。

2 しかしながら,労働審判は原則として各地方裁判所の本庁で実施されるものとされており,裁判所支部では,平成22年4月から福岡地方裁判所小倉支部と東京地方裁判所立川支部でのみ実施されている。
  そのため,山口県内では,労働審判は山口地方裁判所本庁でしか行うことができず,各地方裁判所の支部地域の労働者や使用者が労働審判を利用するには,本庁がある山口市まで出向かなければならない。
  支部地域においても,企業活動が行われている以上,労働紛争の発生は避けられず,これを迅速,適正に解決する有効な手段が必要であり,労働審判は正にこれにふさわしい手続である。
  特に,山口県内においては,山陽地域をはじめ本庁地域外の各市町にも企業が多数存在していること,そして,各支部地域から山口市まで距離があり,更に公共交通機関による交通アクセスが良くないことから,裁判所支部での労働審判実施の必要性はとりわけ高いといえる。
  しかし,現在,労働審判は山口地方裁判所本庁でしかできないため,支部地域の労働者や使用者が労働審判を利用しようとすれば,山口市までの移動による時間的,経済的な負担を強いられることになる。そして,個別労働紛争の性質上,係争金額が少額であることも多いため,申立てのコストから労働審判の利用をあきらめているケースも現実に生じている。
  この裁判所支部ではできないという事情もあってか,山口地方裁判所での労働審判の件数は,全国的な件数の増加と比べるとさほど増えていない。平成19年に申し立てられた件数が7件,平成21年が13件,平成26年が14件にとどまっている。

3 裁判などの司法制度には,国民に対する紛争解決サービスの提供という機能がある。国民に対する司法サービスの提供は,本庁地域と支部地域との間で差があってはならず,憲法に定められている「裁判を受ける権利」を全ての国民に実質的に保障するためには,支部において取り扱うことができる事件を拡大することが必須である。
  労働紛争に関しても,労使双方にとって労働法規により認められた権利を適正に行使,確保するための紛争解決手段が必要であることは支部地域でも変わりはなく,前記のとおり早期に実効性のある解決を行うことができる労働審判を裁判所支部でも実施することは急務である。
  山口県内においては,平成26年3月には下関市議会において「山口地方裁判所管内の各支部における労働審判及び裁判員裁判実施のための予算措置等を求める意見書」,同年10月には山口県議会において「地方裁判所支部における労働審判及び裁判員裁判の実施を求める意見書」の提出議案が上程され,全会一致で可決されている。
以上述べた理由により,当会は,最高裁判所,山口地方裁判所をはじめとする関係各当局に対し,山口地方裁判所管内の各支部でも労働審判を実施するよう求めるものである。
以上